【あらすじ】
女子中学生の加納百合は、学校や親、周囲に対して苛立ちを隠せずにいる。ある日の夕方に母親と口論になり、制服のまま家を飛び出してしまい、誰とも会わない場所と考えて裏山の防空壕跡で一夜を過ごすが、翌朝目覚めて外を見るといつもの見慣れた街や学校もなく景色が全く違っていた。スマホも圏外で、炎天下の中を知っている場所を探して歩き回るうちに、昨日から何も口にしていなかった百合は体調不良で動けなくなってしまう。そこに佐久間彰という青年が通りかかり、百合に水を飲ませるなど介抱の上、近くの鶴屋食堂に連れて行き、女将・ツルを紹介してくれる。百合は彰とツルが戦争のことや特攻隊などと意味不明の会話をしているのに混乱して、ふと目にした新聞の日付は昭和20年6月10日となっている。百合は1945年、終戦間際の日本にタイムスリップしたらしいと気付く。もう一度防空壕で一夜を過ごせば元の世界に戻れるかもしれないと試してみるが、目覚めても何も変わらなかった。行き場のない百合にツルが住み込みで働くよう勧めてくれ、百合はそのまま鶴屋食堂でお世話になることになる。数日後、彰が鶴屋食堂を仲間の特攻隊員とともに訪れる。隊員たちはみんな百合のことを大切に扱ってくれ、食堂の看板娘のように人気者になるが、彰は慣れない生活を送る百合のことを気遣い、一面の百合の花の咲く丘に連れて行ったりして元気づける。そんなある日、百合は戦災孤児の痩せ細った小さな男の子が空腹で野菜を盗み、店の人に殴られたことを知り、その子に野菜をあげて「早く日本が負けて戦争が終われば、普通の生活に戻れるのに」と言ってしまう。そこに通りかかった警官にいきなり高圧的に問い詰められ、反論した百合は警棒で殴られてしまう。さらに殴りかかろうとするところをツルと彰がかばって、代わりに殴られてしまう。百合はふたりに謝りながらも、こんな戦争が正しいわけがないという思いは抑えられず訴えかける百合の言葉を彰は何も言わずに聞いてくれていた。ある日、ツルのお使いで外出した百合は大きな空襲に遭遇し、地獄のような惨状を目の当たりにしてショックを受ける。百合も焼け崩れてきた家の下敷きになり足を挟まれて動けなくなってしまい命の危険を感じるが、火の海の中を必死の思いで現れた彰に間一髪のところで救出される。百合は何度も危ないところを助けてくれた彰を慕うようになっていく。だが、ついに鶴屋食堂で彰たち特攻隊の隊員がツルと百合に3日後に出撃命令が出たと話をされる。百合は彰に初めて告白して、特攻に行かないように何度も頼み込むが、彰を説得することはできなかった。特攻の前日、百合は鶴屋食堂で隊員のみんなと最後のお別れをし、最後に残った彰にすがりつくが、これ以上は迷惑と引き留めるのを諦めた百合を彰が抱きしめる。特攻機に乗り出撃しようとする彰に精一杯名前を呼ぶ百合に向かって彰が優しい笑みを浮かべて胸元の何かを投げる。受け取ったのは美しく花開いた百合だった。百合は地面に倒れ込み意識を失う。そして目を覚ますと現代に戻っており、自宅に帰ると一晩中百合を探していたという母が泣きながら叱ってくれる。1945年ではかなりの期間を過ごしたはずだが、現代では一晩が過ぎただけだった。1945年の世界から戻った百合は家でも学校でも人が変わったように素直になっていた。 学校では社会科見学で「特攻資料館」に行くことになる。訪れた展示室には特攻隊員の顔写真や手紙などが展示されており、その中には百合もよく知っている隊員の写真や手紙があった。そして、視線を移した先には彰の4通の手紙があり、その最後の手紙は「百合へ」と書かれており、「君のことを愛していた」と百合に対する思いが切々と綴られていた。百合は涙が止まらず、心配する同級生たちの前で泣き続ける。先生たちに抱きかかえられるようにして外に連れ出され、ベンチで涙が枯れるまで泣いて、先生が買ってきてくれたミネラルウォーターを一口飲んで空を見上げた百合は「ここは新しい世界だ」と感じて、「あなたたちが命を懸けて守った未来を私は精一杯生きます」と静かに誓う。
【発売年】
2022年
【出版社】
KADOKAWA
【連載誌】
電撃コミック レグルス
【巻数】
全2巻
【上位レビュー】
タイムスリップの要素を持つこの物語は、戦時下という時代背景を舞台としています。主人公・百合は、もともと戦争に興味を持っていなかったが、直接その中に巻き込まれることで、戦争の現実を直視せざるを得なくなります。当時の人々の規律や精神の強さを感じることができ、現代の日本が彼らの支えによって築かれたことを考えると、感謝と共に申し訳ない気持ちで胸がいっぱいになります。物語の中には、これらの要素が絶妙に織り交ぜられており、感動的なシーンが多く、目頭が熱くなる場面がたくさんありました。元々2巻の構成だったと思われますが、もっと百合の物語や彼女の関わりの深まるシーンを読みたかったという印象を持ちました。
地元愛知の元教師の方が執筆されたライトノベルのコミカライズです。2023年12月に映画が公開されるのでご存じの方も多いと思います。小説と設定が変わっていますが、感動は変わるものではありません。絵も作品に合っていて、小学生高学年くらいならすんなり入り込めるのではないでしょうか。ラブストーリーにはなっていますが、主人公の百合の心の動きなどが確かな画力から伝わってきます。多分に美化されがちですが、特攻隊となった若者の辛さがよくわかります。今年、知覧特攻平和祈念館に見学に行ったのですが、その時のことを思い出しました。ぜひ、一読していただきたい良品です。
【下位レビュー】
いろいろと違和感や突っ込みどころがあり物語にはいりこめませんでした。映画化されるとのことで期待して上下巻購入しましたが内容が稚拙です。
服が…現代のはいい。けど戦時中の着ているものが雑で。もう少し戦中の着物の研究してほしい。百合は痩せてるんだからモンペはもっとサルエル風になってるはず。着物のはずなのに袂が(リメイクしていたとしても)なさすぎ。国民服と帽子も。漫画家とかイラストレーターって研究のため実物見に博物館とかを実際に見に行くとかしてるよね?そのほうがもちろんいいけどネットで出てるの参考にしてほしかった。人物も私の中ではもっとかわいい&イケメンだったのも残念。購入しなくて良かった。